Floyd Roseの軌跡 Part 4:使いこなし・カスタム篇 — “育てる”トレモロと、終わりなき沼

「Floyd Roseの軌跡」(全4部)の第4部(最終回)です。


シリーズもいよいよ最終回。Part 1では誕生を、Part 2では製造をめぐる旅を、Part 3では枝分かれした亜流たちを追ってきた。締めくくりとなる今回は、少し毛色が違う。フロイドローズを「どう使いこなし、どう育てるか」という、実践と沼の話だ。

フロイドローズは、買ってきて載せれば終わり、ではない。サステインを変えるブロック、ナット側の奥深い世界、弦切れに備えるスタビライザー、そして地味だが進化し続けるアームの取り付け方式——45年の歴史のなかで、プレイヤーとメーカーは飽くことなく細部を磨き、あるいは沼にハマってきた。その世界をのぞいてみよう。

目次

パーツを換えて”育てる”——サードパーティの世界

フロイドローズには、純正のまま使うだけでなく、パーツを交換して自分好みに”育てる”文化がある。その火付け役となったのが、2000年代半ばに登場したFU-Tone(旧Floyd Upgrades)だ。ワンタッチでドロップDにできる名パーツ「D-Tuna」の発明者アダム・ライバーが立ち上げたブランドで、「純正フロイドは改造の出発点にすぎない」という発想を広めた。ちなみにこのD-Tuna、Part 1で触れた「ドロップDまで下げられる可動域が欲しい」というエディ・ヴァン・ヘイレンの要望が、めぐりめぐって形になったものでもある。

なかでも定番なのが、ボディ裏に取り付ける「サステインブロック」の交換だ。純正の亜鉛合金に対し、真鍮(ブラス)、スチール、チタン、タングステンなど、素材や質量の異なるブロックが数多く売られている。一般に、真鍮は太く暖かい音に、チタンは明るくクリアな音に、と傾向が語られ、大型化して質量を増やせばサステインが伸びるとされる。純正のフロイドローズ社自身も、真鍮やタングステンのアップグレードブロックを販売しているほどだ。

サドルの弦ロックインサートをチタン製に替える、赤や青のカラフルなノイズレススプリングを入れる、色付きのチタンスクリューでドレスアップする——選択肢は尽きない。ただし正直に書いておくと、これらの効果には諸説ある。「ブロック素材で音は激変する」という人もいれば、「ブラインドでは聴き分けられない、自己満足の世界」と切り捨てる人もいる。実際のところ、明確な音の変化を狙うというより、耐久性の向上や見た目の満足感のための投資、と割り切っているプレイヤーが多いのが実情だ。とはいえ、自分のトレモロに手を入れて少しずつ理想へ近づけていく——その過程自体が楽しい。これもまたフロイドローズという趣味の醍醐味である。

ナット側の小宇宙——ロックナットとテンションバー

フロイドローズというと、つい華やかなブリッジ側に目が行きがちだが、”もう一方の端”であるナット側にも、知れば知るほど奥深い世界がある。

まず本家フロイドのロックナットは、意外なほど設計が一貫している。弦を上から三つのブロックで押さえ込む「トップマウント式」が基本で、これはローズが最初に作った真鍮ナット(弦をU字のクランプで固定するもの)の思想を、そのまま受け継いだものだ。ネック幅や弦間ピッチに応じてR2、R3、R4といったサイズ違いは存在するが、機構そのものはほとんど変わっていない。ブリッジ側があれこれ改良されてきたのに比べると、ナット側は「最初から完成していた」と言ってよい。

一つ補足しておきたいのが、ナットのすぐ後ろに付く「テンションバー(ストリングリテイナー)」だ。これは標準で必ず付くものではなく、ヘッドの形状しだいで要否が変わる補助パーツである。役割は、弦をナットの溝にしっかり沿わせ、ロック時に音程が上ずるのを防ぐこと。ストラトのようにヘッドがまっすぐな設計では必要になるが、ヘッドに十分な角度が付いたギターでは、そもそも要らないことも多い。「フロイドには必ずテンションバーが付く」わけではない、というのは覚えておくと役に立つ豆知識だ。

ナット側には、本家とは別の発想もあった。たとえばJackson/Charvelの一部機種が採用した「ビハインド・ザ・ナット式」は、既存のナットを外さず、その後ろに別体のストリングロックを追加する方式。フロイドのように専用ナットへ交換しなくても、手持ちのギターをロック式化できるのが利点だった。

そして忘れがたいのが、日本の一部の愛好家の間で今も語り草になっている「P.F. STROH(ピーエフ・ストロー)」だ。1980年代、フロイドとケーラー双方の欠点を克服したと謳われて登場した異色のトレモロで、2支点式・ファインチューナー搭載という点はフロイドと同じ。だが決定的に違ったのが、ブリッジ側で弦をロックせず、サドル後方から弦を差し込むだけの構造だったこと。おかげで弦交換が驚くほど簡単だった。さらにナットは、横から六角レンチ一本で一発ロックできるスマートな仕様。「よく考えられている」と評価されながら、なぜか普及せずに短命に終わった、幻の名機である。ブリッジをロックしない構造は、フロイドのダブルロッキング特許を避ける狙いもあったのかもしれない。中古市場では今も、知る人ぞ知るレアパーツとして扱われている。

弦が切れても狂わせない——スタビライザーという挑戦

フローティング・セッティングのフロイドローズには、宿命的な弱点がある。ライブの最中に1本でも弦が切れると、残りの弦とのテンションの釣り合いが崩れ、ブリッジ全体が動いて一気にチューニングが狂ってしまうのだ。ステージ上でこれをやられた経験のあるプレイヤーは少なくないだろう。

この弱点に挑んだのが、ボディ裏のスプリング部に取り付ける「スタビライザー(安定化装置)」だ。古くはIbanezの「Back Stop」(スティーヴ・ヴァイの使用で知られる)、ESPの「Arming Adjuster」、そしてHipshotの「Tremsetter」、クランプ式の「Tremol-No」など、各社から多くの製品が出てきた。仕組みはさまざまだが、狙いは共通していて、ブリッジがゼロ点(元の位置)から動きすぎないよう、もう一段の力で支えてやることにある。

ただし、ここには悩ましいトレードオフがある。多くのユーザーが口をそろえて言うのが、「アームの感触が変わってしまう」という点だ。カウンタースプリング式のものは、ゼロ点を通過するときに引っかかるような節度感が出て、動きが渋く硬くなりがち。しかも肝心の弦切れ対策としても、実は完璧ではない。切れた弦の分のテンションは失われるので、ブリッジが中央に戻ってもネックの状態は変わり、結局ぴったりとは合わない。「ないよりはマシ、ライブなら誤差の範囲で乗り切れる」——それがスタビライザーの正直な実力だ。夢の装置のようでいて、感触という代償を伴う。このあたりのさじ加減も、フロイドローズと長く付き合ううえでの一つの学びである。

地味だが奥深い——アーム取り付け方式の三世代

最後に、意外と語られない細部の進化に触れておきたい。アーム(トレモロバー)の取り付け方式だ。実はここにも、はっきりとした三つの世代がある。

第一世代は「スクリューイン(ねじ込み式)」。アーム自体にネジが切ってあり、ベースプレートに直接ねじ込むもっとも初期のタイプだ。角度や低さの自由度はあるが、緩みやすく、締め直すのにブリッジを傾けてレンチを使う必要があって面倒だった。

第二世代が「カラー式(ねじ込みカラー式)」。アームを差し込み、ローレット(刻み)の入ったカラーを締めて保持とテンションを調整する方式で、工具なしで着脱できるようになった。ただしこのカラーが緩みやすく、アームがブラブラしがちという弱点があり、テフロンテープを巻いて対処するのが定番だった。80〜90年代の多くはこのタイプだ。

そして第三世代が「プッシュイン(ポップイン式)」。GotohのEdge系やIbanezが取り入れた、手元でただ差し込むだけの方式で、内部のネジでトルクを調整する。工具レスで抜き差しでき、ガタも少ない。純正フロイドも後年これを採用した。地味な部分だが、「アームがブラブラする」という長年の小さなストレスが、ここでようやく解消されたのだ。細部にまで改良の手が入り続けているところに、この製品の息の長さがうかがえる。

おわりに——45年、変わらないのに、進化し続ける

全4回にわたって、「フロイドローズの軌跡」を追ってきた。一人のギタリストが「アームを使うと音が狂う」という悩みを解決するために作った小さな金具は、エレキギターの演奏スタイルそのものを変え、無数の亜流を生み、そして今も改良され続けている。

面白いのは、45年前に固まったFRT-5の基本形が、今もほとんど変わらずに愛され続けていること。ブロックを換え、スタビライザーを足し、アームの方式を進化させ——プレイヤーとメーカーは細部を磨き続けてきたが、その中心にある基本設計は、最初から驚くほど完成されていた。「変わらないのに、進化し続ける」。この矛盾めいた在り方こそ、フロイドローズが名機であり続ける理由なのだろう。

もしあなたのギターにフロイドローズが載っているなら、それは一つの発明の到達点であり、同時に、いつでも手を入れて自分好みに育てていける”沼の入り口”でもある。ダイブボムを一発、気持ちよく決めたあとで、ふとブロックの素材が気になり始めたら——おめでとう、あなたもすっかりフロイドローズの住人だ。

(了)


≪ 前の記事:Part 3 亜流ファミリー篇 | 次の記事:(このシリーズはこれで完結です)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次