Kahlerの軌跡 Part4:亜流 — Floyd型、日本市場、そして偽物

「Kahlerの軌跡」シリーズ(全4部+番外編)の第4部です。


第4部は、Kahlerを「本流」から外れた3つの切り口で眺める。

目次

Kahler自身が作ったFloyd型(Steeler/Killer/Spyder)

第2部で触れた通り、Kahlerはカム式の会社でありながら、ライバルFloyd Roseの技術をライセンスしてフルクラム機を作っていた。SteelerはKahler版のOriginal Floyd Roseとして、Fernandes HeadcrasherやKahler Killerと並び「あの時代のよくできたライセンス品」と評価されている。ロック部の「FLOYD ROSE LIC」刻印は、ライバル同士の奇妙な相互乗り入れの物証だ。設計者David Petschulatの名前とあわせて、独立した一節として深掘りする価値がある。

日本市場での浸透 — Kahlerが最初に根を張った場所

意外に語られないが、Kahlerは80年代前半、日本製ギターにかなり深く入り込んでいた。しかもFloyd Roseブームが本格化する前夜、というタイミングだったのが重要だ。

Aria Pro II — 早期採用の代表格

松本木工(Matsumoku)製のPEシリーズ上位機に、Kahlerが標準搭載された。PE-R80KV、PE-120KVなど、型番末尾の「KV」がKahler Vibratoの証だ。PEはフュージョン系のイメージが強いが、日本ではむしろメタル勢の愛機としても知られる。その代表格がアースシェイカーのシャラ(石原愼一郎)で、自身のPEでKahlerと格闘し、「Kahlerのアームを世界一狂わせずに使えるのは自分だ」と語れるほど研究し尽くしたという(本人ブログより)。彼が「今どきギターでKahlerを使う人はいるのだろうか」と綴っているのも、Kahlerの現在地を言い当てていて示唆的だ。重要なのは、Ariaが1984年までKahlerを使い、その後は自社開発/ライセンスのFloyd Rose系へ移行したという点。つまりAriaにとってKahlerは「Floyd以前の解」であり、この乗り換えこそ80年代の潮目そのものを象徴している。

Greco — Gibson系にもスーパーストラトにも

神田商会(Kanda Shokai)のグレコは、Kahlerを二つの流れで採用した。ひとつは「Mint Collection」のLes Paul系やFlying V系で、型番に「K」が付くモデルが工場出荷時からKahler搭載だった点。グレコの型番は数字が定価(千円単位)を表し、末尾の「K」がKahler搭載の証になっている——たとえばLes Paul系のPC-98K(¥98,000)、そしてFlying VならFV-105K(¥105,000、富士弦(FujiGen)製)が、まさにその一台だ。もうひとつがスーパーストラトのJJ-1(1985〜86年、富士弦製)で、Kahler USAの「Flyer」トレモロにJackson製ピックアップという、まさに時代のシュレッド仕様だった。もともとアーミングを想定していないGibsonスタイルのVやLes Paulにトレモロを組み込む——これはグレコ側の商品企画の意欲がうかがえる選択で、Kahlerのフラット/スタッドマウントの柔軟性がそれを可能にした、という関係だ。

Charvel(日本製Modelシリーズ)— 記憶通り、ただし1986年ロット限定

アメリカでCharvel/Jacksonを保有したIMC(International Music Corporation)のライセンスのもと、企画・流通を共和商会(Kyowa Shokai)、製造を長野の中信楽器製造(Chushin Gakki)が担う形で、1986〜91年頃に作られた日本製Charvel Modelシリーズ(ネックプレートには米国オフィス所在地の「Fort Worth, TX」が刻印されるが、実際は全数日本製)。この初期、1986年のModel 4(Kahler 2520/Standard/Pro)やModel 6(Kahler 2300 Pro)にKahlerが搭載された。ところが1987年以降、KahlerはJackson JT6(ライセンス版Floyd Rose)へと置き換えられる。「みんながヴァン・ヘイレンに憧れてFloydを欲しがった」——販売上の当然の判断だった。なおこれらのCharvelはKahler特有の「ナット後方のストリングロック」を使う仕様で、通常ナットで弦が滑るため完全なロックにはならず、後年フロイドやロックナットに換装される個体も多い。ここは実用面の注意点として書ける。

Fernandes — あえてFloyd側

対照的に、フェルナンデスはKahlerに積極的ではなかった。むしろ徹底してFloyd陣営で、1982〜85年頃にはFloyd Rose本人と契約して京都の工場で”公式”のFloyd Roseを生産していたほどだ。契約終了後は、それをHeadcrasherやFRTシリーズ(型番はFRT-11まで展開)としてライセンス生産し、1997年まで自社ブランドに供給し続けた。FRT-5やHeadcrasherは「当時のライセンスFloydでも屈指」と評される一方、廉価版にはブリッジ非ロックのストリングスルー機(FRT-2やBody Crasherなど)もあった。ここまでFloydに深くコミットしていたからこそ、Kahlerには寄らなかったわけだ。この京都生産の経緯はフロイドローズの軌跡 Part2(製造の旅篇)で詳しく扱っている。日本メーカーの中で「Kahler派」と「Floyd派」がきれいに分かれていたのは、地味に面白い対比だ。

Fender Japan(Contemporary/Boxer/Pro-Feel)— 「System」はSchaller、Kahlerはその先

ここは誤解が多いポイントだ。Fender Japan(富士弦製)のスーパーストラト、Contemporary Stratocaster(1984〜87年。Contemporaryは輸出向けの名称で、国内市場ではその後継のBoxerシリーズがこれにあたる)に載る「System I/II/III」トレモロは、しばしば「Kahler」と思われがちだが、実際はSchaller製のフロイド系フルクラム(ナット後方でロックする方式)で、Kahlerではない。本物のKahlerが載るのはもう少し後で、時系列はおおむね「System I(〜1986)→ Kahler 2520 Traditional(1987〜88。Schaller製ストリングロックと混在したハイブリッド個体もある)→ Kahler Spyder(1988〜90頃)」と整理できる。そしてその国内向けBoxerシリーズでは、SF系がKahler-Fulcrumを搭載。さらに後継のPro-Feelシリーズ(1988年〜)ではSHMモデルがKahler Spyderを積んだ。「Fenderの80年代ロックトレモロ=Kahler」と早合点せず、System系(Schaller製・ナット後方ロック)と本物のKahler(カム+ローラー)を刻印と機構で見分けるのが、中古選びの実用ポイントになる。

まとめると、日本市場ではKahlerが1982〜86年頃に一度深く根を張り、1986〜87年を境にFloyd系へ一斉に流れた。Aria、Charvel MIJの型番変遷が、その転換点を年単位で記録している。ヤフオクやReverbで「KV」「Kahler搭載の初期ロット」を狙う際の、実用的な年代判別のヒントにもなる。

偽物・カウンターフィット問題

Kahler公式には、名指しで警告する「偽Kahler」ページが存在する。それだけ根強い需要と模造品があるということだ。公式が挙げる見分け方は明快で、実用的でもある。

  • メトリック(ミリ)表記なら偽物。 本物のKahlerハードウェアはすべてSAE規格(インチ/分数)で作られている。だから偽物のパーツは本物と互換性がない。
  • ロゴがシール/デカールなら偽物。 本物は商標を金属フレームに刻印またはスタンプする。ロゴのない「無印」やプロトタイプは存在しない。
  • アームの先端が軽ければ怪しい。 本物は重い真鍮製のチップがねじ込まれている。
  • 公式いわく「Kahlerは中国にもイスラエルにも販売代理店を持たない」。

歴史的には、日本のTakeuchi(竹内)がカム&ローラー機構を模倣したのが古い例で、近年はロシア製の「Hosco Licensed by Kahler」がReverbなどに繰り返し現れては削除される、という状況が報告されている。ヤフオク等で中古を買うときは、SAE/メトリックとロゴの刻印を確認する——このワンポイントだけで、実用記事としての価値が出る。


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